投資では、「安く買って、高く売る」とよく言われます。言葉にすると、とても簡単です。
でも実際には、高くなったものを売るのは意外と難しい。
たとえば、株式60%、債券40%で運用を始めたとします。その後、株式市場が大きく上昇して、株式の比率が70%になった。
最初に決めた60%へ戻すなら、増えた株式の一部を売って、債券を買うことになります。これがリバランスです。
仕組みは、それほど難しくありません。
でも、自分のお金でやろうとすると、少し違った感情が出てきます。
「こんなに上がっているのに、売るのはもったいない。」
たぶん、そう思います。
勝っているものを減らすのは、気分が悪い
株式市場が好調なときは、ニュースにも明るい話が増えます。企業業績は好調で、新しい技術が世界を変えると言われ、株価は最高値を更新する。
そんなときに「株が増えすぎたので売ります」と言うのは、なんとなく時代に逆らっているような気がします。
しかも、売ったあとにさらに株価が上がるかもしれません。100万円売った株が、その後120万円になったら、「あのとき売らなければよかった」と思うでしょう。
逆もあります。
株価が大きく下がって、株式60%だったポートフォリオが50%になった。元の配分へ戻すなら、今度は株式を買います。
でも、そんなときのニュースには「景気後退」「金融危機」「さらに下落する可能性」といった言葉が並んでいるかもしれません。その中で株を買うのも、やはり気分のいいものではありません。
つまりリバランスとは、結果的に上がったものを売り、下がったものを買うことになります。
理屈では簡単でも、感情的にはあまりやりたくないことをする仕組みです。
私は、相場を見て配分を変えない
金融市場を仕事にしていると、株式、金利、為替、景気、中央銀行など、毎日のようにさまざまな材料を見ながら、これから相場がどうなるのかを考えます。
それでも、自分のお金については「株が上がりそうだから株式を増やそう」とは、あまり考えません。反対に、「そろそろ危なそうだから株式を減らそう」とも考えない。
未来は分からないからです。
だから私は、先に配分を決めておく方が好きです。そして、相場が動いてその配分が大きくずれたら、元へ戻す。
予想して売買するのではなく、配分を維持するために売買する。
私にとってリバランスは、リターンを上げるためのテクニックというより、自分が取ると決めたリスクの大きさへ戻すための作業です。
でも、人生が変わったら配分は変えていい
もちろん、一度決めた資産配分を死ぬまで変えてはいけない、とは思っていません。
30歳と60歳では、同じ人でも収入や家族構成、必要なお金、資産額、これから働ける時間など、いろいろなものが違います。
だから、
相場が変わったから配分を変えるのではなく、自分の人生が変わったら配分を見直す。
これは以前の記事でも書いた考え方です。
たとえば、子どもの教育費が近づいた。住宅を買うことになった。退職した。十分な資産ができて、以前ほど大きなリスクを取る必要がなくなった。反対に、思っていたより長く働くことにした。
そういう変化なら、配分を見直せばいい。
変わったのは市場ではなく、こちら側だからです。
「今回は違う」と思ったとき
それでも、実際に相場が大きく動くと、ルールを守るのは難しくなります。
株式が大きく上がっていると、「今回はもう少し持っておこう」と思う。大きく下がっていると、「もう少し落ち着いてから買おう」と思う。
どちらも自然な感情です。そして厄介なことに、どちらにもそれらしい理由をつけることができます。
私自身、相場のニュースを毎日見ていますから、「今回はAIによる構造変化だから」「今回はインフレの時代だから」「今回は地政学リスクが違うから」と、理屈をつけようと思えばいくらでもつけられます。
たぶん、いつの時代にも「今回は違う」と言える理由があります。
本当に世界が変わっていることもあるでしょう。でも、それを自分が正しく見抜けているかは別の話です。
だから「今回は違う」と思ったときほど、一度、自分で決めたルールに戻ってみる。
未来が本当に違うのかどうかは、未来にならないと分からないからです。
何もしないのも、一つの判断
リバランスのルールを決めると、意外と何もしない時間が増えます。
株価が上がっても、まだ自分で決めた範囲なら何もしない。下がっても同じです。定期的に確認して、大きくずれていなければそれで終わり。
少し退屈です。
でも、私はそれでいいと思っています。
投資をしていると、何か行動することが仕事のように感じることがあります。売ったり、買ったり、銘柄を入れ替えたり、次に上がりそうなものを探したりする。
でも、
「何もしない」というのも、ルールに従った一つの判断です。
私は、投資判断の回数を増やすこと自体には、それほど魅力を感じません。
むしろ、判断しなければならない回数が少ない仕組みの方が、長く続けやすいと思っています。
上がったら、喜んで少し売る
株式が大きく上昇して、最初に決めた配分を超えた。
そんなときに株式を売るのは、やっぱり少しもったいなく感じます。
でも、私はこう考えるようにしています。
ちゃんと働いてくれたから、元の場所へ戻す。
株式の仕事は、資産を成長させること。その仕事を十分にして、ポートフォリオの中で予定より大きくなったのなら、一部を売って別の資産へ戻す。
それは、株式の将来を悲観したからではありません。
反対に、株式が大きく下がったときに買い増すのも、「そろそろ底だと思うから」ではない。
予定より小さくなったから、元へ戻すだけです。
上がった理由を考えすぎない。下がった理由も考えすぎない。ただ、自分で決めた場所へ戻す。
そう考えると、リバランスはずいぶん地味な作業になります。
帰る場所を、先に決めておく
相場が大きく動くと、未来について考えたくなります。
まだ上がるのか。もう下がるのか。今が天井なのか。ここが底なのか。
でも、その答えが分からなくても投資はできます。
自分がどれくらいのリスクを取るのかを決める。それぞれの資産に仕事を与える。大きくずれたら戻す。そして、自分の人生が変わったら、配分そのものを見直す。
それくらいでいいのだと思います。
未来を当てる代わりに、帰る場所を決めておく。
上がったものを売るのも、下がったものを買うのも、何もしないのも、すべてその場所へ戻るための行動です。
相場がどちらへ行くのかは分かりません。
だから私は、未来を予想するよりも、ときどき自分が帰る場所を確認しておこうと思います。
このテーマを、もう少し考える
そもそもの資産配分から考える
→「50代になったら、『何を買うか』より先に考えたいこと」
相場が荒れる前に、戻る場所を決めておく
→「暴落した日に、投資のルールを決めない」
感情が動いても、ポートフォリオまで動かさない
→「証券口座を閉じたあとも、相場を見続けていませんか?」
