資産運用をしていると、お金を使うことが少し怖くなることがあります。
100万円を使えば、銀行口座や証券口座の残高は100万円減る。
数字では、とても分かりやすい。
反対に、100万円を運用して120万円になれば、20万円増えたこともすぐに分かります。
だから私たちは、つい残高が増えることを「良いこと」、減ることを「悪いこと」と考えてしまいます。
でも最近、お金を使ったときに、
そのお金は本当に「なくなった」のだろうか。
と考えることがあります。
お金は、別の資産に形を変えることがある
たとえば100万円を、家族との旅行に使ったとします。
金融資産は100万円減ります。
でも、その旅行で見た景色や、一緒に食べたもの、途中で起きたちょっとした出来事は、その後も残ります。
数年後に写真を見ながら、
「あのとき、こんなことがあったよね」
と話すかもしれません。
同じ100万円を教育に使うこともできます。
新しいことを学んだり、知らなかった世界に触れたりする。
そこで得た知識や経験は、その後の人生で何度も使われるかもしれません。
健康のために使うこともできる。
あるいは、お金があることで仕事を少し減らして、自分や家族との時間を増やすこともできるでしょう。
こう考えると、お金を使うことは、必ずしも資産を失うことではありません。
金融資産を、別の資産に形を変えている。
そんな見方もできると思います。
もちろん、知識や経験や健康に値段をつけることはできません。
家族との思い出を、100万円の資産としてバランスシートに載せることもできません。
でも、人生全体で考えれば、金融資産だけが資産というわけでもないはずです。
80歳の5000万円と、65歳の5000万円
たとえば65歳で5000万円の金融資産を持っている人がいるとします。
年金もあり、老後の生活についてもある程度の見通しが立っている。
元気なうちに夫婦でヨーロッパへ行こうと、100万円の旅行を計画していました。
ところが、その年に株式市場が大きく下落した。
「今年は相場が悪いから、旅行は来年にしよう。」
金融資産を守るという意味では、合理的な判断に見えます。
でも、少し気になります。
では、どうなったら行くのでしょう。
株価が戻ったら?
資産が5000万円に戻ったら?
最高値を更新したら?
それまで待っている間にも、自分の年齢は一つずつ増えていきます。
65歳なら、一日中街を歩き回れるかもしれない。
75歳では、同じ旅行ができるとは限りません。
80歳になって十分なお金が残っていたとしても、食べられる量は減っているかもしれないし、長時間の移動がつらくなっているかもしれません。
金融資産として見れば、5000万円はいつでも5000万円です。
でも、
80歳の5000万円と、65歳の5000万円は、同じ5000万円ではない。
私はそう思っています。
思い出にも、複利がある
投資では、時間を味方につけることが大切だと言われます。
早く投資したお金ほど、長く運用することができる。
でも、時間を味方につけられるのは金融資産だけではないのかもしれません。
若いうちに学んだことは、その後の人生で長く使えます。
早く始めた趣味が、その後何十年も楽しめることもあります。
家族との思い出もそうです。
旅行から帰ってきたら、その旅行は終わります。
でも、思い出まで終わるわけではありません。
何年か後に写真を見る。
家族でその話をする。
「あそこ、もう一度行きたいね」と笑う。
早く作った思い出ほど、その思い出を楽しめる時間も長くなります。
これを「思い出の複利」と呼ぶ人もいるようです。
私は、この考え方が好きです。
金融資産を複利で育てることも大切です。
でも、人生にはもう一つの複利がある。
そう考えると、お金を使うタイミングも少し違って見えてきます。
高い体験ほど、豊かなわけではない
ただし、ここで一つ気をつけたいことがあります。
「だったら、若いうちにどんどんお金を使えばいい」
という話ではありません。
300万円の海外旅行が、50万円の国内旅行より豊かな思い出になるとは限りません。
50万円の旅行だって、近場で魚釣りをしたり、家族でキャンプをしたりする時間より価値があるとは限りません。
家族との時間を振り返ってみても、心に残っているのは必ずしも高価だった体験ばかりではないと思います。
一緒に魚を釣ったこと。
キャンプでご飯を作ったこと。
何でもないことで笑ったこと。
思い出というのは、結局、
誰かと一緒に過ごした時間なのだと思います。
お金をかければ、その時間が豊かになるわけではありません。
お金は、そのための機会を作ってくれることがある。
それくらいのものなのかもしれません。
豊かな体験と、高価な体験は違います。
見えない資産には、残高が表示されない
金融資産には残高があります。
5000万円。
4900万円。
数字を見れば、増えたのか減ったのかがすぐに分かります。
でも、人生の中にある多くのものには残高がありません。
健康。
知識。
経験。
人との関係。
一緒に過ごせる時間。
こういうものには、
「残り○○」
とは表示されません。
だから、つい見える資産の方を守りたくなる。
金融資産を減らさないことを優先しているうちに、見えない方の資産へ変える機会を逃してしまうこともあるのかもしれません。
子どもが親と一緒に出かけてくれる時期にも限りがあります。
夫婦で元気に旅行できる時期にも限りがあります。
何かを学んだり、新しいことを始めたりするのも、早い方が長く楽しめることがあります。
もちろん、将来への備えは必要です。
老後の生活費も、医療や介護への備えも考えておいた方がいい。
だから、金融資産を減らせば減らすほどいいわけではありません。
でも、金融資産だけを守り続けることが、人生全体の資産を守ることになるとも限りません。
お金を、何に変えるのか
証券口座の残高は、お金が減ったことを教えてくれます。
でも、
そのお金が何に変わったのかまでは、教えてくれません。
知識になったかもしれない。
健康になったかもしれない。
誰かと過ごした時間になったかもしれない。
何年経っても話せる思い出になったかもしれない。
お金を増やすことは大切です。
将来のために備えることも大切です。
でも、増やしたお金を、いつ、何に変えるのか。
それを考えることも、資産運用の一部なのだと思います。
お金を使っても、減らないものがある。
私は、そんなものにも少しずつ資産を移していきたいと思っています。
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